思わぬスイス入国を果たし、無事ガス欠の危機を乗り越えた初めての海外旅行。

　この時点で時間は既に夜８時半を回り、結構暗くなってしまったので、ボーデン湖は諦めるしかありませんでした。記憶に間違いが無ければ、この場所はジンゲンというところの近くで、ボーデン湖観光で有名なコンスタンツまではそう遠くなかったと思うんですけど、予定ではこの日にフュッセンまで行くことになっていて（宿は取ってなかったのですが）、ここからフュッセンまでは直線距離でもあと150km近くあります。そしてここからフュッセンまではアウトバーン（高速道路）が通っていないので、一般道を行かねばならなかったのです。

　見知らぬドイツで、一般道を、しかも暗い中運転するというのは大変です。何せ道に迷っても夜じゃあ聞ける人もそういないでしょうしね。

　というわけで、スイス滞在時間恐らく十数分にして、スイスを後にすべく目の前の国境ゲートへと車を進めたのでした。

　ドイツ→スイス入国のときはパスポートと国際免許証を見せてバッチリでしたので、今度もしっかりパスポートと国際免許証を準備してからゲートへ向かいました。

　さて、高速道路の入り口のような国境ゲートでパスポートを渡しました。中にはスイス入国のときよりはもう少し「軍人」ぽい感じのドイツ人が二人います。今度はしっかりパスポートを受け取り、中をしげしげと見ているので、少し緊張しながらも車の中で待ってました。

　待つこと１、２分くらいでしょうか。中で二人が何やら話してます。まさか一旦出国してから入国するときにはビザが必要とかそんなわけはないでしょうけど、こんな状況ですから、いやが上にも緊張度はぐんぐんアップしていきます。

　そして、片方のドイツ人が、

"☆●∂♪×！"

はぁ？

　すると、もう一人のドイツ人も

"♂□▲※♀！"

何言ってるのかさっぱり分からん・・・

　マジ、焦りました。とにかく緊張していたせいもあったでしょうが、それが英語であるのかすら分からなかったのです。

　このときばかりは演技でも何でもなく相当困った顔をしてたことでしょう。なんせ、頭の中では

このまま捕まってしまうのか？

そして日本に強制送還されてしまうのか？

いや、まだ返してもらうならいいけど、捕虜収容所に送られたら・・・
（そんなことはない）

などと妄想が渦巻いていたのですから(--;;;。

　それでも二人のドイツ人はひっきりなしに私に何か言ってきてます。大体、顔が怖い。もう少しニコニコしながら喋ってくれればいいものを、とにかく無表情で何か言ってるのです。

もう完璧にイッパイイッパイです。
タスケテクレー!ヽ(´Д`;ヽ≡/;´Д`)/

・・・と、そこで一瞬私の耳をかすめた単語が・・・

アウト、アウト！

ヒイィィィ!!!!(゜ロ゜ノ)ノ

それって、
車の外（アウト）に出たら、後ろ向かされて逮捕されちゃうんでしょうか？

それとも、

お前さんはもうおしまい（アウト）だよ、って意味でしょうか？

　ともかくおしまいだけはイヤなので（意味不明）、車の外に出るしかありません。いろんなことが頭をよぎりながらも、私は諦めて恐怖のあまり半ば朦朧としながらも、ドアを開けて外に出たのです。

・

・

・

あーっ、はっはっ（爆笑）

と笑う二人のドイツ人。何がおかしいのか私にはさっぱりわかりませんがとりあえず愛想笑い。

　すると、片方のドイツ人が、

"Do you speak English?（お前は英語を話すのか？）"

と聞いてくるじゃあありませんか。

　私はすかさずイエスと答えました。すると、

"Driver's licence, please.（免許証をお願いします。）"

と言われたんです。国際免許証はゲートに来る前にしっかり助手席に置いておいたので、車に入ってそれを手に取り、また外に出てドイツ人に渡しました。今度はそれをちらりと見て、

"Are you living here?（ここに住んでるのか？）"

と聞いてくるので、

"No, I'm a tourist.（いや、旅行してます。）"

と返答。二人はやや不思議そうな顔をしつつも、パスポートと国際免許証を返してくれ、

"Ok."

と言ってくれました。

神様、ありがとう！
〔†〕 m(￣０ ￣〃)

　こうして私は今度はホントのホントに無事、ガソリン満タンの車でドイツに再入国することができたというわけなのでした。さぁ、出発です。

・・・車を走らせるうちに少し落ち着いてきました。そして落ち着いてくると、少しずつですが国境での状況を分析できるようになってきました。

まず、アウト。

　私の耳にははっきり「アウト」と聞こえました。英語で「アウトゥ」って感じですらなく、はっきり「アウト」と聞こえていたのです。

　そして気づきました。

アウト（Auto）＝（ドイツ語の）自動車

ということに．．．

全然ドイツ語マスターしてないじゃん！＜オレ

　そうして、後ろのドイツ人が叫んでいた言葉の中に「パピエ、パピエ」ってのがあったのにも気づいたんです。

パピエ（papier）＝（フランス語の）紙、書類

一応フランス語選択・・・

　要するに、彼らはドイツ語とフランス語で「運転免許証を見せて」と言ってただけだったんです。そりゃそうです。そこは旅行者など来るはずもないくらい田舎のスイスとドイツ国境。そこで使う言語と言ったらドイツ語かフランス語に決まってるわけです。

　それでようやく彼らの「ここに住んでるのか？」の質問の意図が分かりました。夜の９時前に日本人の旅行者が通過するってこと自体、普通じゃあありませんからね。

それにしてもあそこで笑ったのって、アウトを英語だと勘違いしたってのが分かったってことだよな．．．。
もしかして最初っから英語を話すかもって思ってたんじゃないだろーな。
ちゅーか、日本人だって分かってんだから英語で話し掛けろよなっ！
あ、でも英語で話してても気づいてなかったのかも・・・(-。−;)

　この後、大して減ってもいないのに、夜遅くまで空いているガソリンスタンドを見つけて給油し（併設してるお店で晩飯としてポテトチップスとチョコレートと水も買いましたけど）、途中車を止めては位置を確認しながら一般道を走ってようやくフュッセンについたときには既に夜中の12時過ぎ。

　とてもこんな時間からホテルを探す気になどなれず、駐車場に車をとめて後部座席で寝て夜を明かしたのでした(--;;;。